大阪府・吉村知事、企業への“肩入れ”発言に反省なし 支援したベンチャーがワクチン開発中止〈dot.〉
大阪大学発の創薬ベンチャー「アンジェス」が、新型コロナウイルスの従来株に対応するワクチン開発の中止を発表した。これまで大阪府の吉村洋文知事は、会見などで「初の国産ワクチン」「実用化も」などと前のめりな発言を繰り返し、株価に影響する事態にもなった。それが失敗すると、挑戦したことに意味がある、といった趣旨の発言。政治家の責任とやらはどこに? ワクチン開発を紹介する大阪維新の会の広報誌はこちら
アンジェスは9月7日、 「開発を進めていた新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けDNAワクチンの開発を中止することを決定いたしました」 と発表した。 それまで吉村知事の会見や大阪維新の会の広報誌などでは、「国産ワクチン」「10万人、20万人に対応できる」などと紹介され注目を集めてきたが、結果は出なかった。 厚生労働省のある幹部は渋い表情でこう話す。 「アンジェスは民間企業なので、開発に失敗してやめた、でいいかもしれない。だが、国や大阪府はそうはいかない」 吉村知事がどのような発信をしてきたか紹介する前に、アンジェスの創業者で、現在も個人としては筆頭株主でもある、大阪大学大学院寄付講座教授の森下竜一氏についても触れておく。 森下氏の名前が最初に注目されたのは、2017年に安倍晋三元首相に「加計学園」問題が浮上した時だ。愛媛県に岡山理科大学獣医学部を新設する「国家戦略特区」の事業者に加計学園が選ばれた。それまでの50年以上、獣医学部の新設はどこの大学にも認められていなかったのにもかかわらずだ。 その結果、加計学園の理事長、加計孝太郎氏と安倍氏が長年の友であったことから、特別な便宜を図ったのではないかとの大きな疑惑を招いた。 安倍氏と加計氏が一緒にゴルフをする姿が報じられたが、その時、別の組でプレーしていたのが森下氏だった。 安倍氏とのツーショットの写真もSNSで拡散され、「安倍人脈」の一人として知られるようになった。安倍政権では内閣府の規制改革会議の委員などにも名を連ねた。
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森下氏は「維新」とのつながりも強めていく。 大阪府・市の特別顧問や、「2025年大阪・関西万博」の基本構想検討会議の委員を務め、万博に出展する「大阪パビリオン」の総合プロデューサーに就任している。 一方、20年の年明け以降、新型コロナの感染者が増え始めると、アンジェスは同年3月にワクチン開発を始めたと発表。大阪府は4月、ワクチン開発で大阪市や大阪大学などと連携協定を結び、支援態勢を固めた。 そして、吉村知事の会見である。 5月20日、吉村知事は会見で、 「大阪大学においては、DNAワクチンの開発を今進めています。7月からは現実に治験として人に打つ、そういったことを開始していく予定です。10月には対象者を拡大した治験というのもやっていく予定です」 とぶち上げ、パナソニックからコロナ対策のために寄付された2億円のうち、1億5千万円を森下教授が所属する大阪大学に割り当てたことを明かした。 そして同25日、自らのツイッターではこんなことを発信した。 <大阪大学発のバイオ企業アンジェスは新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)を7月から始める。動物実験の成果などを受けて厚生労働省や医療機関などと治験前倒しについて協議している。有効性が確認できれば年内にも承認を受けて実用化される可能性がありそうだ> ツイッターとはいえ、知事が特定の企業名を挙げ、開発が始まったばかりの段階で期限を示して実用化の可能性について触れている。 さらに、6月17日の会見では、 「日本産、そして大阪産の新型コロナのワクチンの開発をこの間、進めてまいりましたが、6月30日、今月末に人への投与、治験を実施いたします。これは全国で初になると思います」 「DNAを組み込んだワクチン。ワクチンの種類としては非常に安全な部類に入ります」 「現実に、その動物実験で安全性も確認いたしました」 「来年の春から、いわゆる一般投与としての実用化というのをここで目指していきたい
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「国産のワクチンを開発して、日本における新型コロナウイルスとの闘いというのを大きく反転攻勢させていきたい」 などと前のめりな発言に終始し、森下氏の名前もあげて次から次へと「絶賛」した。 吉村知事が会見を重ねるとともに、アンジェスの株価は急上昇した。同年2月は500円程度だったのが、5月末には2000円台に。6月17日の会見の翌18日には、終値で過去最高の2324円をつけるまでになったのだ。 しかし、コロナの感染拡大の中で、森下氏と安倍氏や吉村知事の関係もクローズアップされはじめ、 ワクチン開発への「肩入れ」の背景に、政治的な思惑があるのではないかと懸念されはじめた。 アンジェスのワクチン開発も期待通りには進まず、大阪府が公表している資料「大阪府の連携協定機関における研究の進捗状況」でも、「臨床試験の接種開始」という程度の情報から、その後の新しいものがアップデートされない。 21年11月、同社は、十分な効果を得られず、最終段階の治験を断念すると発表し、改良ワクチンの開発に注力するとした。その後もアンジェスから「朗報」は届かず、今回の中止の発表となった。 アンジェスはその理由を、 「期待する水準には至らず、効果を上げることが難しいとの判断に至りました」 と説明している。 それでも大阪府は、「連携協定」について23年3月末まで延長している。 大阪府に聞くと、 「根本的には、コロナの感染拡大を止める治療薬、方法の確立というところでの協定です。コロナの感染拡大が継続しており、やめる理由はない、として続けています。今回はワクチン開発という一つの研究が中止になっただけで、協定を打ち切る理由にはならないと判断しています」 とのこと。 吉村知事は記者会見で、それまでの自身の発言などについてこう説明した。 「実際に研究した森下さんから聞いた話に基づいて発信をいたしました。その通りにいかないのは当然、あり得る。チャレンジがないと成功もありません」
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チャレンジすることは問題ではないが、トップの発言、判断に責任はないのだろうか。 前新潟県知事で、弁護士、医師でもある米山隆一衆院議員は、 「私の経験からも、知事をやっていれば補助金、助成金が欲しいといろいろな方が来ますよ。そこは、専門部局にきちんと精査させて決断するのが知事の仕事。森下氏は、アンジェスの大株主でもあり利害関係者。その人が言ったことを精査せず、記者会見で語るなんてことはあり得ません。大きな責任があります」 と指摘する。 国はアンジェスに対し、ワクチン開発や研究、生産のため、日本医療研究開発機構や厚生労働省などから計約75億円の補助金を出している。 ワクチン開発は成功せず、巨額の税金や寄付は水の泡と消えた。 (AERA dot.編集部・今西憲之)
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